大判例

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仙台高等裁判所 昭和26年(う)47号 判決

案ずるに現行刑事訴訟法は、所謂当事者主義を採用し、訴訟は原則として当事者の攻撃防禦に依つて進行し、職権主義は寧ろ補充的なものとされることになつたのであるから、公訴を提起し、これを維持、遂行することは検察官の当然の職責であつて、これが為検察官は公訴を提起するに当り、同一事実につき数個の訴因及罰条を予備的に、又は択一的に記載することができるし、一旦公訴を提起した後でも、裁判所に対し公訴事実の同一性を害しない限りは、起訴状に記載した訴因罰条の追加又は変更を請求することが出来、裁判所も亦その請求を許さなければならないことになつているのである。従つて検察官としては、自己の捜査収集した資料に基き、当初から数個の訴因及罰条を予備的に又は択一的に起訴状に記載して公訴を提起することも、また其の後の公判手続における審理の経過、相手方の提出した証拠等に鑑み起訴状に記載した訴因及罰条を更に追加、撤回又は変更をすることも其の職責上当然為し得べく、また為すことを要するものといわねばならない。して見れば、予備的又は択一的な訴因及罰条に基いて訴追すべきか、或は審理の経過に鑑み、訴因及罰条の追加、撤回又は変更を請求すべきかは、本来原告官たる検察官自らの職責と判断に基いて決すべきことであつて、刑事訴訟法第三百十二条第二項の規定があるからといつて、これが当事者主義に対する補充的、例外的意義を否定するものと解すべきではないのである。もつとも刑事訴訟法第三百十二条第二項の命令は裁判所の自由裁量に任せられているものと解すべきか或は裁判所にこの命令を為すべき義務を課したものと解すべきについては、議論の余地があるけれども、右は本来検察官が職責上自ら為すべき訴因、罰条の追加又は変更を、訴訟経済上の見地から例外的に裁判所の職権を介入させてこれを為さしめる趣旨の下に設けられたものと解すべきであるから、裁判所がこの命令を為すべき場合は、条文の示す通り「審理の経過に鑑み、適当と認めるとき」に限らるべきであつて、この条件が存しないときは裁判所は職権により訴因及罰条の追加又は変更を命ずることの職責は存しないものと解するを相当とする。本件につき之を見るに、被告人の斉藤康雄に対する暴行は、所論のような事情の下に行われた、所論のような程度のものであるとすれば、これにつき裁判所が積極的に訴因の追加又は変更を命じてまで、処罰しなければならない程悪質のものでもないのであるから、原審がこれを為さなかつたとしても、審理不尽ないし、訴訟手続の法令違反の違法があるということはできない。所論は結局検察官として為すべき職責を裁判所に転嫁した議論であるから採用し難いのである。

(後略)

(検察官の控訴趣意書)

第二、原審には審理を尽くさない訴訟手続の法令違反がありその違反が判決に影響を及ぼすことが明かである。被告人の原審公判廷における供述を見ると「起訴状記載の日時、場所において斉藤康雄と喧嘩したことは認めるが兇器をもつて同人を突き剌したことはない」(記録第六丁裏二行目乃至六行目)「口論をしながら斉藤は着ていたオーバーを脱いでそれを側の女に渡しましたので私は多分殴つて来る事だろうと思いズボンのポケツトから手を出しました、そして今日は君は酔つてるのでもあるからどうかといつたりしましたところ斉藤はでは明日俺の弟分を君のところにやるから千円を出して大いにもてなしてくれというのです。それで私はそういわれたとて、そうしなければならないという理由はないので、どうしてそうする必要があるのか等と又口論を続けました、そしてたまたまお多福横丁の辺りで斉藤が手拳で私の右頬を殴つてまいりました、で私は身体がふらふらしましたところ今度は腰投げを打つてまいりました。そして再び同じく腰投げを打つてまいりましたが斉藤は一方に転べば溝に、他の一方に転べば店の硝子戸に当る場所に尻持をついてしまいましたので同人を抱きかえるようにして離れろといい斉藤の頬を一つ殴つてやりました。すると斉藤は又私を殴つてまいりました。それで私は斉藤が三回目に殴つて来るのを待つておりましたがそれを止めて先手を打つて斉藤を蹴りました。そして早くやめてその場を逃れようとしておりましたら斉藤は刃物でも持つているような格好をして寄つてまいりましたので私はそれをさけて西より東に逃げのびました。」(記録第百四十七丁七行目乃至第百四十八丁裏七行目)とあり、結局被告人は斉藤康雄と喧嘩斗争をしその機会に同人に暴行を加えた事実は被告人の自認するところである。従つて原審はよろしく右暴行の事実につき検察官に対し訴因の追加又は変更の意思があるか、どうかにつき釈明し、又場合によつては右暴行の訴因につき訴因の追加、又は変更すべきことを命じ、この点に付犯罪の成否について審理を遂げた上判決すべきであることは訴因制度を採用した新刑事訴訟法上当然であるのに此の点の措置をとらなかつた原判決は本件公訴事実中に包含されていると認むべき暴行の事実に対し審理を尽さないものと言わなければならない。

そしてこの訴訟手続の法令違反は判決に影響を及ぼすことが明かである。

(後略)

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